日々

少年は背の高さ程にがんばる

転んでも
走っても

夢はどこまでも遠く
なお 遠ざかる

走っても
叫んでも

少年は時々
雲を見上げて横たわる
けれど 気があせっている
すぐに
また立ち上がって行く

走り出すと足どりは重いが
過ぎ行く景色は素朴でいつも変わらない
それでも
なお 遠ざかって行く
夢が見える



   -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

十一月

かちかちと柱時計の音もまた冷たく
しんしんと更けた夜
銀色の月光も凍りつかんばかりに
ひややかに
また犬なども闇にのまれたのか
我救えとばかりに叫ぶような

天上の光の穴よりもれる光は
あくまでもちかちかと
世は静まりかえり
時を失ったかのように

銀の光りの中に
銀の光のの中に

   

   -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

童女 M

ひとつ ふたつ みっつ よっつ
きみは
別れたグラスの破片を
机の上に並べる

いつつ むっつ ななつ やっつ

ぼくは
きみのしなやかな桃色の指と
海のように深くすんだ目とを
かわるがわる見ている

ひとつ ふたつ みっつ よっつ
指をさして数えるきみの
あどけないしぐさを見て

いつつ むっつ ななつ やっつ

ぼくの胸の中で
グラスの割れる音がする



   -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

そして冬

君は柿の実を一つ
ぼくに落とした

ありがとう 君ってやさしいんだね
ぼくのことばに君は頬を染めた

ぼくは君がかわいくてしかたなかった
でも
言わなければならなかった
さようならだ 来年まで
まっすぐと登っていたけむりが
わずかに揺れるのが見えた

君が好きだよ と
心の中でつぶやいた

冬も もう
すぐそこまで

ぼくを 風が
吹きぬけて行った

     
       -『中三時代(10)』(旺文社)作品コーナー一席 1979初出   
  -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

海にきた日

こうしてあなたを見ていると
ぼくは何だか不安になります

あなたは余りにも明るすぎて
よく笑うものだから

まるで風になったみたいに
浜辺を駆けて行くものだから
そのまま
風になって
どこかに行ってしまいそうで
海の青さに
溶け込んでしまいそうで

不安になるのです

海に来た日

その夜は
あなたと ふたりきりで居たい
 

     -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

秋の事件

夕日を眺めながら
都会の少年たちは
ありもしない
故郷のことを思う

時計が鳴っても
母が呼んでも

里は もうすっかり
秋色に染まったという
まっすぐと登ったけむりは
やがて夕焼け雲と まじわってしまうという

さて 都会はといえば
電車の扇風機にカバーがかかり
夏の果てなかった夢や思い出が
ころがっているだけ


   -『中三時代(2)』(旺文社)作品コーナー二席 1979初出
  -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

ひみつ

ふたりの愛を誓い合う
そんな儀式は
些細なことでいい
そして
できれば ひみつが
ふたりを覆(おお)ってくれるといい

ぼくらはふたりきり
夕陽の部屋で
一本のたばこを吸ってみてはどうだろう
きみのうつくしい横顔から
けむりがゆっくりと離れてゆくのが
見えるようだ

たばこなんか
真面目(まじめ)なきみはいやがるだろうか

それでも
けむりは
やがて僕等を包んでくれるに
違いない

あたりの空気は
ひみつのにおいを
漂わせるに違いない

ふたりの愛を誓い合う儀式には
そんな些細なひみつが欲しい
そんな ふたりだけの
ひみつが欲しい


   -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

東から

夜はまだ明けず

東からかすかな風が吹く頃
虫たちの合奏はクライマックスを迎える

境界線が風を従えて闇を追って来るんだ

やがて
朝の生き物たちが声をあげ始めると
虫たちの合奏は
潮がひくように消えて行くんだ

   
   -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

雨の思い出


雨の中をびしょ濡れになって駆けて行ったのは
誰だったろう
生まれる前みたいな広いところに
ただ雨だけが降っていて
そこにぼくが居たなんて

九十九里へ行って
飛鳥へ行って……
ああ かならず出会った雨は
まだ
ぼくともうひとりの中に
しみ込んでいるだろうか

雨を見上げ雲を見上げ
落ちてきた雫は
ふたりの想い出だったのか

心に深く染み込んでいるのか


   -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

夏の訪れ


葉が風に揺れ
滴(しずく)が落ちる

すると滴は
虫たちにしか聴こえない
かすかな音とともに
地面に達する

そして
地面に着いた滴たちは
陽光を浴びて
やがて
夏の匂いを放ち始める


  -『中三時代(10)』(旺文社)作品コーナー三席 1979初出
  -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980

序詩

知っていますか
あなたが駆けだせば
そこにひとつの
風が生まれるということを

知っていますか
あなたが微笑めば
そこから美しい
光の輪が広がるということを

心の中には無限の泉があって
常にほとばしり
いくらでも そとに
あふれでているということを

 
   -〈童女 M -16の詩-〉新風舎 1980